フラット系三種のノンダイアトニックコード 同主調マイナーからの借用

こちらのページでは、ノンダイアトニックコードとして活用できる「♭III」「♭VI」「♭VII」のコードについて解説していきます。

あわせて、記事の最後では動画による解説も行います。

「♭系ノンダイアトニックコード」の概要

ダイアトニックコードに無いコード(ノンダイアトニックコード)として、「♭III」「♭VI」「♭VII」の三種類のコードを活用することができます。

下記は、キー=Cにおける「♭III」「♭VI」「♭VII」のそれぞれを示したものです。

キー=Cにおける「♭III」「♭VI」「♭VII」
  • 「♭III」=E♭
  • 「♭VI」=A♭
  • 「♭VII」=B♭

これは、この例で言えば通常ダイアトニックコードとして活用できる七つのコード(C、Dm、Em、F、G、Am、Bm-5)に加えて、新たに「E♭」「A♭」「B♭」の三つが活用できる、ということを意味します。

これら三つのコードは「Cm」のダイアトニックコード内に存在するものです。

下記は、「Cマイナーダイアトニックコード」の一覧です。

Cマイナーダイアトニックコード
Cm, Dm-5, E♭, Fm, Gm, A♭, B♭

ここでの「三番目(E♭)」「六番目(A♭)」「七番目(B♭)」がそれにあたります。

このことから、これら三つのコードは「同主調マイナーキーから借用されたコードである」ということがわかります。

※「同主調」とは、同じ主音を持つキーの「メジャー/マイナー」それぞれのことを指します。詳しくは以下のページをご参照ください。
転調 その1 転調の概要(転調とは中心音と音のグループを変えること)と調の種類

この三種のコードはマイナーキーからの借用であるため、少し暗い響きを持っているところが特徴です。

そのような意味から、これらのコードはロック的なサウンドを強く打ち出す際によく活用されます

注意

ここで使用している「♭系ノンダイアトニックコード」という名前は音楽理論上の正式名称ではなく、この三つのコードをまとめて指すための造語です。

モーダルインターチェンジという観点

上記「同主調」の関係となる「Cメジャー」と「Cマイナー」は、同じ中心音「ド」を持つ「Cメジャースケール(ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)」と「Cマイナースケール(ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭)」をその土台とした調です。

中心音が変わらないため、「Cメジャー」の曲において「Cマイナー」の音使いを取り入れることは「『モード』を切り替えている=モーダルインターチェンジ」と捉えることもできます。

▼関連ページ
モーダルインターチェンジの解説 モーダルインターチェンジとは何か?その使用方法や効果など

「♭系ノンダイアトニックコード」の利用例

「♭系」の三種のコードは理論的な意味あいの薄いコードであるため、コードの前後関係をそこまで深く考慮せずに活用することができます

下記は三つそれぞれのコードにおける、よくある利用例です。

1.「♭VII」

三つの中でも特に多く活用されるのが「♭VII」です。

このコードは「I」の全音下をルートとしており、「I」に近い位置で利用されることが多いです。

下記はコード進行の例(キー=C)です。

C → B♭ → C → B♭
(I → ♭VII → I → ♭VII)

この例の様に、「♭VII」から「I」に向ったり、「I」が「♭VII」に向ったりする構成がとられます。

また「♭VII」を変形させた「♭VIIM7」は「IV」ともいくつかの共通音を持つため、それは「IVの代理」のような意味で活用されることもあります。

下記は「IV」を使用した構成と、それを「♭VIIM7」に置き換えた構成の比較例です。

「IV」を使用した構成
C → F → G
(I → IV → V)
「IV」を「♭VIM7」に置き換えた構成
C → B♭M7 → G
(I → ♭VIIM7 → V)

ノンダイアトニックコード「B♭M7」の響きがアクセントになっていることが感じられます。

2.「♭VI」

「♭VI」のコードは「V」の半音上をルートとするコードであるため、「V」に近い位置で多く利用されます。

下記はコード進行の例です。

F → A♭ → G
(IV → ♭VI → V)

この例では、本来想定される「F → G」の間に「A♭」が挟まるような形となっており、ドミナントへの移動が延長されるような効果を生んでいます。

同様に、上記例のうち「V」を省略して「♭VI」からそのまま「I」に終止させる構成(下記)も見かけられます。

F → A♭ → C
(IV → ♭VI → I)

「♭VI」のルートが「IV」の短三度音であることから、この例の様に「IV → ♭VI」は「IV → IVm」と似たような響きを持ちます。

この例で言う「F → A♭」は「F → Fm」の代理のような響きを持つ、ということです。

このように「♭VI」は「サブドミナントマイナー(IVm)」の代理としても活用されます。

他にも、「♭VI」は近くのルートを持つもう一つの♭系コード「♭VII」と連結されて使用されることがあります。

それは「♭VI → ♭VII」というコード構成を意味し、多くの場合はそこからさらに先へルートを伸ばして「♭VI → ♭VII → I」という形を作ります。

下記はキー=Cでの例です。

A♭ → B♭ → C
(♭VI → ♭VII → I)

「A♭」から始まったコードの構成が、二回の全音進行によって力強くトニック「C」に向って動いていくような印象を与えます。

3.「♭III」

「♭III」は三つの中でも使用頻度が比較的低いものですが、「I」や「IV」に絡めて使用されるケースが多いです。

下記はその例です。

C → E♭ → F → G
(I → ♭III → IV → V)

この例での「E♭ → F → G」は、前述の「A♭ → B♭ → C」と同じく二回の全音進行によりルートが上昇する形となっています。

こちらではドミナントに向けて力強いコードの動きを作っています。

動画で解説

文章ではよくわからない!」という方のために、下記動画でも♭系ノンダイアトニックコードとその利用方法について実演を交え解説しています。

是非参考にしてみてください。

まとめ

下記は「♭系」三種のノンダイアトニックコードについてのまとめです。

  • ノンダイアトニックコードとして「♭III」「♭VI」「♭VII」が活用できる。
  • この三種のコードは同主調マイナーキーからの借用コード(またはモーダルインターチェンジによって導かれたコード)である。
  • ロック的なサウンドを打ち出す際によく活用される。
  • 理論的な紐付けをそこまで考慮せずに使用することができる。

「♭系ノンダイアトニックコード」は、ノンダイアトニックコードの中でも「カッコイイ響き」を持ったコードです。

ロック的な曲を作る際には是非活用してみて下さい。

この三つのコードを上手く活用できるようになると、ロックなサウンドを操れるようになります。

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