音楽初心者の人にとってコード進行は一種の「暗号」のようなもので、それを自分で作ろうとすると作業はどうしても適当なものになってしまいます。
また、作ったコード進行を実際に聴いてみると、なんだか流れが不自然だと感じたり、
聴いたところ違和感はないけど、これで正しいの?
と、不安になってしまう人も多いはずです。
この「適当にコード進行を作る」というやり方はある種間違いではないのですが、そこにはコツのようなものも存在しているため、適当に(=思いのままに)コード進行を作りつつも、いくつかのポイントを押さえることが欠かせません。
こちらのページでは、そんな
コード進行を適当に作る時に知っておきたいルールやコツ
などについて、詳しく解説していきます。
目次
適当にコード進行を作るための基礎知識
こちらのページでテーマとするのは
適当に(=思いのままに)コード進行を作る
という内容ですが、既に述べたようにそれをそのまま無計画に実施してしまうと、やはりコード進行はぐちゃぐちゃなものになってしまいます。
そこで、以下にコード進行を作るための基礎知識と呼べるようないくつかのルールをご紹介します。
これらを踏まえたうえで、思いのままにコードをつなげていくと、ある程度自由に、かつ聴いても不自然ではなくきちんとした説得力のあるコードの流れを組み立てていくことができます。
1. キーを定め、ダイアトニックコードで作る
まずコード進行を作るうえで欠かせないのが「キー」の概念です。
▼関連ページ
キー(音楽)について キー=「中心音」と「まとまりのある音のグループ」を意味する言葉
詳しくは上記ページでも解説していますが、この「キー」とは
どんな音を主に活用していくか?
を定義するものです。
使う音を選び、まとまりを感じさせる
ピアノの鍵盤(以下図)を見るとわかるように、そもそも音には「白鍵=7個」「黒鍵=5個」の計12個しか存在しておらず、実際のところそれぞれは平等な価値を持っています。
冒頭で述べた「無計画にコードをつなげること」は、これらの音をただやみくもにつなげることと同じです。
すなわち、ピアノの鍵盤を「ガチャガチャ…」とめちゃくちゃに弾くのと同じだということを意味します。
そこで、「キー」という概念によって扱う音をある程度定め、それらを土台として音楽を組み立てることで、そこから「まとまり」のようなものが感じられるようになります。
「ダイアトニックコード」という概念
この「キー」をコードで表現するのが「ダイアトニックコード」と呼ばれるコードのグループです。
▼関連ページ
ダイアトニックコードとスリーコード 概要や成り立ち、コードの役割などについて
以下は、キー別にダイアトニックコードを一覧化した表です。
この表にある通り、例えば「キー=C」というとき、そこでは
C, Dm, Em, F, G, Am, Bm-5
の七つのコードが活用されます。
つまり、これらの七つをコード進行に活用することで、その音楽は「『キー=C』の音楽」として認識されるようになる、ということです。
また裏を返せば、ここに含まれない「C#」や「E」などのコードを適当に入れてしまうと、そのコード進行は「キー=C」だと認識されづらくなり、既に述べた「まとまりのある雰囲気」が薄れます。
ここまでを整理すると、以下のようになります。
- 音楽は「キー」という概念のもとに、まとまりのある雰囲気を維持するように組み立てらる
- それをコード進行で表現するための概念が「ダイアトニックコード」
- コード進行を適当に考えるにあたり「ダイアトニックコード」を活用することでまとまりを維持できる
2. カデンツを意識する
「ダイアトニックコード」についてある程度把握できたうえで、それらを使いながら適当にコード進行を組み立てるうえでもある程度のコツが必要となります。
その中心となるのが「カデンツ」と呼ばれる概念です。
▼関連ページ
カデンツ(終止形)の詳細とポップス・ロック作曲への応用
カデンツとは、「コード進行の型」のようなもので、
この型に沿ってコードをつなげるとスムーズな流れが作れる
ということを整理したものです。
ダイアトニックコード内のコードにはそれぞれに機能がありますが、その機能をカデンツに割り当てることで、あらかじめ整理されたそれらの型に沿ったコード進行を生み出すことができます。
つまり、ダイアトニックコードを活用しながらコード進行を組み立てる際には、
- ダイアトニックコード内にあるコードそれぞれの機能を理解する
- その機能をもとに、カデンツを目安としてコード進行を組み立てる
という手順を踏むことがポイントとなるのです。
3. 強進行を意識する
さらに、スムーズなコードの流れを生み出すためにカデンツとあわせて活用できるのが「強進行」の概念です。
▼関連ページ
強進行について(通称「4度進行」=ドミナントモーションの元になる力強い音の動き)
詳しい解説は上記ページに譲りますが、「強進行」とは「強い結びつきが感じられる音の動き」を意味するもので、これに沿ってコードをつなげることでコード進行は自然な響きを持ったものに感じられます。
例えば、「キー=C」というとき、
- C→F
- G→C
- Dm→Am
などはすべて強進行の流れとなりますが、適当にコードをつなげるうえでも、このような知識を把握しているか否かがコード進行を魅力的なものに感じさせるための鍵となります。
三つの特別ルールを意識する
ダイアトニックコードを活用しながら、上記の「カデンツ」「強進行」を踏まえてコード進行を作ることが理解できたうえで、そこから特に注意したい三つのポイントを以下に挙げます。
- VIIm-5は使わない
- IIImで始めない・終わらない
- Vで始めない
ここでの「VIIm-5」「IIIm」「V」のコードは特徴的な響きをもっており、ダイアトニックコードの中でも扱いに注意が必要です。
それを不用意にコード進行の冒頭に置いたり、やみくもに使うと不自然な響きが生まれてしまうことがあるため、コード進行を組み立てる際にはこれらのポイントを守ることがひとつの目安となります。
中でも「VIIm-5」は扱いづらいコードであるため、基本的にダイアトニックコードはそれを除外した計六つのコードを活用するものとして理解して下さい。
4. ノンダイアトニックコードはなるべく適当に使わない
ここで
ダイアトニックコード以外のコード(ノンダイアトニックコード)は使えないの?
という疑問が湧きますが、もちろんそれらを活用することができます。
そもそも、数多くあるコードのうちの一部がダイアトニックコードで、ほとんどのコードは「ノンダイアトニックコード」に相当するため、それらをいかに効果的に活用するかが個性的なコード進行を生み出すためのポイントとなります。
▼関連ページ
ノンダイアトニックコード 意味とその種類の解説 活用のルールやコード進行例等
ノンダイアトニックコードについては上記ページでも解説していますが、冒頭でも述べた通りコード進行は基本的に「キー=ダイアトニックコード」というまとまりのもとに成り立つため、そこに含まれないコードを扱うにあたっては、それなりの注意が必要となります。
つまり、ノンダイアトニックコードが「不自然なコード進行」を生み出す元になってしまう、ということです。
これを踏まえると、ノンダイアトニックコードは原則ルールに沿って活用すべきで、そこから、このページでテーマとしている
適当にコード進行を作る
という内容からは論点がずれてしまいます。
とはいえ、ルールを知ったうえで使い方をアレンジしていくことは可能であるため、まずはノンダイアトニックコードの基本的な手法をある程度把握し、それを実際に活用しつつ理解を深めるところから始めてみて下さい。
※ノンダイアトニックコードを含めた音楽理論(コード理論)について、詳しくは以下のページにて解説しています。
音楽理論を知りたい人のための「学習の見取り図」※独学に活用できる「音楽理論の何をどの順番で学べばいいか」のまとめ
ここまでのまとめ
ここまでをまとめると、以下のようになります。
- コード進行を考えるうえで、まず「キー」を意識する
- 「キー」に沿って「ダイアトニックコード」を活用しながらコード進行を作る
- ダイアトニックコード内にあるコードの機能を理解し、「カデンツ」を意識しながらコード進行を作る
- 自然なコードの流れを生み出すために「強進行」を活用する
- 「VIIm-5」「IIIm」「V」は特に扱い方に注意すべき
- 「ノンダイアトニックコード」はなるべくルールに沿って使用する
コード進行を適当に作るうえでは、これらを踏まえることが説得力のある流れを生み出すためのポイントとなります。
既存曲のコード進行分析
ここまでを通してコード進行の基本的な仕組みが理解できたところで、これ以降はそれらを踏まえ、既存の曲を分析しながらそれをコード進行を適当に作るための参考にしていきます。
「チェリー(スピッツ)」
C,Dm,Em,F,G,Am,Bm-5
こちらの楽曲は「キー=C」で、ここに挙げたサビのコード進行と「Cダイアトニックコード」を比べると、すべてのコードはそこから活用されていることがわかります。
また、ここでの
C→G→Am
は
トニック→ドミナント→トニック
という機能の流れを作っており、これは前述したカデンツのひとつの型に相当します。
ここから、コード進行にそれらが活用されていることが改めて理解できます。
さらには、
- C→F
- G→Am
- Em→F
- F→G
などのコードの動きは、「四度の強進行」およびダイアトニックコード内の隣りのコードに進む「二度の強進行」にあたるものです。
これらも同様に、このコード進行がスムーズだと感じられる理由のひとつといえるでしょう。
「恋するフォーチュンクッキー(AKB48)」
D,Em,F#m,G,A,Bm,C#m-5
こちらの楽曲のキーは「D」です。
取り上げたのはAメロ冒頭のコード進行ですが、ここでもすべてのコードが「Dダイアトニックコード」から活用されています。
数回繰り返される「D→Bm」は
トニック→トニック
という機能のつながりであるため、コードの響きに安定感があり、また「G→A→D」という
サブドミナント→ドミナント→トニック
の流れはカデンツを活用したコード進行を考えるうえで定番ともいえるものです。
また、ここには同じく「A→D」という強進行が含まれています。
「桜坂(福山雅治)」
G,Am,Bm,C,D,Em,F#m-5
こちらの楽曲は「キー=G」で、ここに挙げた曲冒頭のコード進行は前述の「チェリー」に似た骨組みとなっています。
「Gダイアトニックコード」と見比べてみるとこちらでもすべてのコードはそこに含まれており、「C→D→G」というコードの流れは「恋するフォーチュンクッキー」と同じ概念によるものです。
このようなコード進行は「カノン進行」の変形としても解釈できます。
▼関連ページ
カノン進行によるコードのつなげ方と例 定番のコード進行とそのアレンジについて
コード進行分析からわかること
上記三つの例のすべてにおいて、すべてのコードはそのキーのダイアトニックコードから活用されています。
また、カデンツの流れもきちんと踏まえられており、同様に強進行を盛り込み、コードの流れに説得力を加えているところもポイントです。
これを踏まえると、やはり適当に(=思いのままに)コード進行を作るうえでもダイアトニックコードを考慮することは重要で、かつカデンツや強進行がそれをより意味のあるものに感じさせてくれることがわかります。
上記の三例は曲全体を通してもノンダイアトニックコードの活用が最小限で、ほぼダイアトニックコードのみによって成り立っています。
まとめ
ここまで「コード進行を適当に作る時に知っておきたいルールやコツ」と題して解説してきました。
つまるところ、「適当」といいつつもやはりコード進行を作るうえではある程度ルールを踏まえるべきだという結論に達します。
特にダイアトニックコードの概念はコード進行を作るうえで欠かせないため、実際にコードを組み立てながらその響きを体感してみて下さい。
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