こちらのページでは、転調テクニックの一つである「同主調転調」について詳しく解説していきます。
目次
同主調転調の概要
今回テーマとする「同主調転調」とは、その名の通り「同主調」への転調を意味する言葉です。
これを知るためには、そもそも「同主調」とはどのようなものなのか、ということを理解しておく必要があります。
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同主調とは?
調については上記ページでも解説していますが、今回テーマとなる「同主調」とは「同じ主音を持つ別の調」のことで、例えば
- 「Cメジャーキー」の同主調=「Cマイナーキー」
- 「Cマイナーキー」の同主調=「Cメジャーキー」
を指します。
調を形成するスケール
ここで挙げている「メジャーキー」「マイナーキー」のそれぞれを形成するのは、「メジャースケール」または「マイナースケール」です。
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それぞれのスケールには「主音」と呼ばれる中心音があり、それを起点として以下のような型に沿って音を当てはめることでスケールが成り立っています。
【メジャースケール】
【マイナースケール】
これを、例えば前述の「ド」を中心音として組み立てると
となります。
つまり、同じ「ド」という音を中心音とする場合にもスケールによって音のメンバーが変わるということです。
その上で、この「同じ主音を持つスケール使う調」を指して「同主調」という言葉が用いられています。
もちろん、他の各メジャーキーにも同主調となるマイナーキーが必ず存在し、それはマイナーキーから見ても同じです。
- 「Aマイナーキー」の同主調=「Aメジャーキー」
- 「B♭メジャーキー」の同主調=「B♭マイナーキー」 など
同主調転調の例
以下に、既存の曲における同主調転調の例を示します。
「While My Guitar Gently Weeps(ビートルズ)」
上記動画における「0分50秒」あたりに転調ポイントがあります。
こちらの曲は
- Aメロ=Aマイナーキー
- サビ=Aメジャーキー
という構成になっていますが、実際に音源を聴いてみると、転調のポイントで曲の持つ雰囲気が変わることを体感できます。
同主調転調の特徴の一つが、この「『マイナーキーの暗い雰囲気』から『メジャーキーの明るい雰囲気』への切り替わり(またはその逆)」です。
「The Fool On The Hill(ビートルズ)」
こちらの動画では、「0分25秒」あたりが転調のポイントとなっています。
この曲はブロックの切り替わりが曖昧なのですが、キーの構成は
- 転調前=Dメジャーキー
- 転調後=Dマイナーキー
のような形となっており、前述した「While My Guitar Gently Weeps」とは逆に、メジャーからマイナーに切り替わっています。
こちらも同様に転調のポイントで曲の雰囲気が変わり、その急激な変化が曲の個性となっています。
「I’ll Be Back(ビートルズ)」
この楽曲は
- Aメジャーキー
- Aマイナーキー
のそれぞれを行ったり来たりするような構成となっています。
転調の具合を簡単に書き表したのが以下の一覧です。
- イントロ=「Aメジャー」
- 0分05秒=「Aメジャー」→「Aマイナー」
- 0分24秒=「Aマイナー」→「Aメジャー」
- 0分40秒=「Aメジャー」→「Aマイナー」
このように転調を細かく繰り返す曲は珍しく、同主調転調の中でも特殊な例と言えるでしょう。
こちらも前述の二曲と同様に「メジャー」「マイナー」の変化が特徴的なサウンドを生み出しています。
同主調転調の特徴
同主調転調は数ある他の転調と比べて転調を実施しやすく、その上で転調のインパクトも大きいため意外性を演出できるものとされています。
その理由は、調の成り立ちにあります。
1. ドミナントセブンス(V7)が同じであるためスムーズに転調できる
「Cメジャー」と「Cマイナー」を例に挙げると、例えばそれぞれのキーによって曲を組み立てる際には以下のような「Cメジャーダイアトニックコード」「Cマイナーダイアトニックコード」が活用されます。
この中でも特に重要なコードは「C(I)」および「Cm(Im)」で、これらのコードが曲中に登場することでリスナーはそれぞれのキーを強く感じます。
つまり、「C」というコードの響きを聴くことで
というように、リスナーはそのキーの「中心」を感じ、そこから「メジャー感」「マイナー感」を潜在的に察知するのです。
「V7→I」というコードの動き
また、それと共に重要なのがそれぞれのキーにおける五番目のコード「G(V)」「G(Vm)」で、これらは「ドミナントコード」などと呼ばれます。
ドミナントコードはそのキーにおける主和音(I、Im)を連想させるものとされており、中でもそれを「V7」(ドミナントセブンス)の形にしたコードは不安定な響きを持っていることから、安定した響きを持つ「I」「Im」に強く結びつきます。
この「強い結びつき」がコードの推進力となり、例えば「キー=C」の曲の中に「G7」が登場することでリスナーは
と連想でき、そのうえで「G7→C(V7→I)」という構成を聴くことで「C(I)」とそのキーをより鮮明に感じられるのです。
マイナーダイアトニックコードの「Vm」について
上記「Cマイナーダイアトニック」の五番目のコードが「Gm」となっていたように、マイナーダイアトニックの五番目のコードは本来「Vm」の形を持っています。
そのうえで、この状態では不安定な要素が弱く主和音(Im)を連想させづらいことから、そこに結びつくときに限って「V7」が活用できる、という例外があり、マイナーキーでもメジャーと同じく
という構成が成立します。
※このあたりは、マイナースケールの変形によって生まれる特別な解釈なのですが、詳しくは前述した「マイナースケール」解説のページをご確認下さい。
同じ「V7」によって、キーを行き来できる
ここで説明を「同主調転調」に戻すと、例えば「Cメジャー」「Cマイナー」は違うキーでありながら、同じドミナントセブンスコード「G7(V7)」を持っていることがわかります。
これはひとつの「G7」から
- G7→C(V7→I)
- G7→Cm(V7→Im)
という二つの強いコードの流れを連想できることを意味しますが、これらそれぞれを転調のつなぎ目にできるのです。
つまり、例えば
のように「Cメジャー」として展開していたコードの流れの中で、「G7」をきっかけとして
と、「Cマイナー」の展開に無理なく持ち込むことができる、ということです。
前述した「I’ll Be Back」が「Aメジャー」と「Aマイナー」を行ったり来たりできていたのはまさにこの特徴のおかげです。
通常、転調はキーを変えることそのものが大変で、かつそれを違和感なく元のキーに戻すことはより大変だとされています。
それが、同じドミナントセブンスコードを持つことで簡単に実現できてしまうというところに、同主調転調の扱いやすさがあります。
2.「中心音が変わらない」という唯一のキーへの転調
例えば「キー=Cメジャー」を元のキーとすると、それを他のキーにする際にはほとんどの場合において中心音が変わります。
- 「Cメジャー」から「Gメジャー」=中心音「ド→ソ」
- 「Cマイナー」から「Aメジャー」=中心音「ド→ラ」 など
そのうえで、同主調転調は「同じ主音」を持つ「メジャー」⇔「マイナー」間の転調であるため、中心音が変わらないのは既に解説した通りです。
数ある転調の中でも中心音が変わらないのはこの「同主調転調」のみであり、そのような意味からもこれが特別な意味を持った転調であると理解できます。
「モーダルインターチェンジ」的な解釈
この、同主調転調の持つ
- 中心音を変えない
- スケールを「メジャー」⇔「マイナー」で変える
という特徴は、「『モード』を変えること」とも捉えることができます。
これを音楽用語で「モーダルインターチェンジ」などと呼びますが、この点について詳しくは以下のページで解説しています。
モーダルインターチェンジの解説 モーダルインターチェンジとは何か?その使用方法や効果など
まとめ
ここまで、同主調転調について解説してきました。
ポイントを改めて整理すると、以下のようになります。
- 「同主調」とは同じ主音を持つ調(「Cメジャー」⇔「Cマイナー」などの関係)
- メジャーからマイナー(またはその逆)の変化を演出できる
- 同じドミナントセブンスを持つため、スムーズに転調できる
- 中心音が変わらない、という特徴的なキーへの転調
転調の一つのテクニックとして、是非同主調転調を活用してみて下さい。