私は、作曲講師の仕事とあわせて、これまでボーカリストに曲を提供したり、ライブにおけるギター伴奏を頻繁に経験していますが、そんな中でボーカル担当者からよく
「やっぱり自分も作曲できるようになった方がいいのでしょうか?」
という相談を受けることがあります。
結論からいえば
- できなくても全然問題ない
- でも、できないよりはできたほうがいい
という答えになるのですが、こちらのページではその理由や実例などについてより詳しくご紹介していきます。
また、ページ最後では作曲に興味があるボーカリストの向けに、無理なく始められる作曲の方法をあわせてご紹介しますので、現在このような想いを持たれている方は是非参考にしてみて下さい。
目次
「歌だけ」も素晴らしい
「作れる方がより偉大」という誤った認識
なぜ多くのボーカリストが
作曲できるようになった方がいいのではないか?
と思ってしまうかといえば、そこには
- 曲を作れる人は偉大(創造性に優れている)
- 表現するだけの人はそれより劣る(創造性がない)
という認識が世の中に広まっているからではないかと想像できます。
これは大きな誤りで、そもそも「曲を作る人」も「それを表現する人」も同じように偉大です。
まず「歌える」という立派なスキルがあることを誇るべきで、「どちらがよりすごい」ということはないのです。
得意・不得意がある
また、多くのプロシンガーが「シンガーソングライター」のようなスタンスで作曲もしているため、「自分もそうなった方がいいのでは?」と感じてしまうこともあるはずです。
確かにその気持ちもわかりますが、そもそも人には「得意・不得意」があるものです。
この点について詳しくは後述しますが、曲においては
- 曲を歌うことだけが得意
- 曲を作ることだけが得意
- 曲を歌うことも作ることも得意
という3パターンの分類が想定できます。
このなかで「3」に相当するひとが前述した「シンガーソングライター」になるのだと思います。
繰り返しになりますが、ここでも「どれが偉大」という優劣はなく、どんな人も素晴らしいのです。
「自分は歌うだけで作っていない、それでもいいのかな…?」
と考えてしまうとき、その答えは
歌うことだけが得意ならそれで全く問題ない
となります。
作曲を経験した結果ボーカルのみに戻った人たちの例
私はこれまで、多くのボーカリストと同じように
作曲できるようになった方がいいのでは?
と考え、実際に行動を起こし、いろいろと経験した結果、最終的に「ボーカルだけに専念すること」を選んだ人を多く見てきました。
これが、既に述べた「得意・不得意」を意味するもので、簡単にいえばそれらの人たちは作曲をやってみたけど、歌うことほどそこに熱意を持てなかったのだと思います。
以下に、その人たちの例を挙げてみます。
例1. プロシンガーの男性
この彼は、もともと歌うことが大好きで歌の技術もあり、そこからオーディションに合格してプロのボーカリストとしてのキャリアをスタートさせました。
有名プロデューサーのもと、ソロのシンガーとして活動を始めていたのですが、このページでテーマとしているように、彼も同じく「作曲ができないボーカリスト」でした。
楽器もできない・作曲もできない、という状態の彼を見て、そのプロデューサーが
- ギターをやってみれば?
- 作曲もできるようになれるといいね
というようなアドバイスをしたことで、彼はそれを行動に移します。
アコギを入手してコードを覚え、苦労しながらもなんとかわずかなコードだけで曲を弾けるようになりました。
そこから作曲の手ほどきを受けて曲作りの体験してみたのですが…
結局のところ彼はギターの演奏や作曲に熱意が持てず、それをやめてしまいボーカルのみに専念することを選びました。
実際、彼の歌は「プロのシンガーの歌」そのもので、声にツヤと伸びがあって声量と音階のコントロールも素晴らしく、生で聴くと本当に圧倒されるほどです。
歌の技術を磨き、常に向上してプロのシンガーとしてのスキルと誇りを持つことができる彼も、「ギターと作曲は楽しいと思えなかった」と述べていました。
これがまさに「得意・不得意」を意味するものです。
もちろん彼はそこからプロシンガーとしてキャリアを継続させ、アニメの主題歌を担当したり、ソロでライブをやったりと、立派に活躍しています。
例2. ジャズシンガーになった女性
もう一人の女性も歌うことが大好きで、もともとアマチュアのシンガーとしてライブに参加したり、いろいろなところで歌を披露していました、
一方でシンガーソングライターにもあこがれを持っていた彼女は、その後ギターを手に入れ、そこから演奏の練習をして作曲を少しずつ始めるようになります。
さらに努力を重ね、結果として一年ほど経ってオリジナル曲のみによるソロの弾き語りライブができるほどにもなりました。
作曲を始めて数年とは思えないほど曲の品質も素晴らしく、実際に見たライブはボーカルの技術、ステージング共に感心できるものでした。
個人的には「ああ彼女はここからシンガーソングライターとしてやっていくんだろうなあ」と思っていたところ、ある時ぱったりとそれをやめてしまいます。
そこから、彼女はジャズシンガーに転向して、歌の技術のみ集中して磨くことを選んだのです。
彼女いわく、
「ギターも作曲も良かったけど、やっぱり歌うことが一番楽しい」
のだそうです。
これも「得意・不得意」という事柄を考えさせられる好例だと思います。
彼女もジャズシンガーとして誇りを持ち、さまざまなライブに呼ばれるまでになっています。
上記の例からわかること
この二つの例から、
- 作曲をやってみると、それが得意ではないと気付くこともある
- ボーカリストとして誇りが持てれば、それに専念すればよい、その姿も素晴らしい
- 歌に専念することで、得意なもので評価されて、自分としても楽しく音楽活動ができる
ということなどがわかります。
現在、歌だけを歌っている自分にどこか劣等感があって
「作曲をできるようにならなければいけないのでは?」
と考えてしまっている場合には、一度
「作曲は自分にとって『得意なこと』か?」
という点を考えてみることをおすすめします。
それでも作曲してみたい、という場合
ここまでを通して、「それでもやはり作曲をしてみたい」という人は、簡単な環境を整えて実際に曲作りを体験してみましょう。
これには、「ピアノ弾き語りによる作曲」をおすすめしています。
▼関連ページ
【ピアノで作曲!楽器が弾けなくても大丈夫】作曲初心者がピアノやキーボードで作曲する方法
ピアノは必ず音が鳴る
現在、作曲には「楽器」や「PC(パソコン)」が活用できますが、その中でも今すぐ環境を整えられて、かつ手軽に作曲を進めやすいのがピアノを活用するやり方です。
ボーカリストのみなさんの中にはすでに電子ピアノやキーボードを所有している人も多いはずですが、ギターと違って鍵盤楽器は鍵盤を押せば必ず音が鳴るため、これを使うことによって作曲をするにあたり壁となる「楽器を弾くこと」の敷居が大きく下がります。
また鍵盤楽器は音の関係が視覚的にすぐわかるため、ボーカルのメロディラインを確認するのにも最適です。
ピアノを弾きながら歌って作る
「ピアノ弾き語り」による作曲の進め方について詳しくは上記ページを確認いただきたいのですが、ポイントとなるのは
- ピアノをコードで演奏する
- メロディを歌いながら作る
という二点です。
ここでご紹介しているコードの演奏はとても簡単で、慣れれば一時間ほどで出来るようになります。
また、メロディを歌うという点はボーカリストのみなさんにとっても馴染みがあるはずです。
慣れないうちはこれらに苦労しますが、何度か続けていくことで次第にスムーズにそれができるようになっていきます。
まずは簡単なものから体験してみる
作曲を始めるにあたって、いきなり大きな結果を求めようとしないことも大切です。
多くの作曲初心者は、
- シンプルでありきたりなメロディしか思い浮かばない
- あたりさわりのないコード進行や曲展開しか作れない
ということなどにがっかりしてしまうものですが、初心者であるためこれは当然です。
作曲を繰り返していくうちに段々とコツを覚え、自分でも納得できるような曲が作れるようになっていきます。
※この点については以下のページでも解説しています。
作曲初心者にありがちな「作曲が進まない」の対処法|いきなり「しっかりした曲」を作ろうとしないほうがいい
また、前述した「得意・不得意」「熱意が持てるか・持てないか」という事柄は、まさにこの点に通じるものだと考えています。
つまり、作曲が得意だったりそこに熱意が持てる人は、この「上達の過程」を楽しめるのです。
ボーカルと同じほどそこに面白みを感じたり、上手くいかない自分を歯がゆく感じて「もっと良い曲を作れるようになりたい」と思えるなら、作曲をするだけの熱意がそこにあることになります。
反対に、この過程を面白いと思えなければ恐らく「作曲が得意ではない」「作曲に熱意が持てない」ということがそこからわかります。
まとめ
以下は、ここまでのまとめです。
- ボーカルは作曲ができなくても問題ない。
- 実際にやってみて、作曲が得意ではないことに気付くボーカリストも多い。
- それでも作曲をやってみたいなら「ピアノ弾き語り作曲」から始めるのがおすすめ。
作曲ができなくても、歌を追求して、そこだけに熱意を傾けるのも素晴らしいです。
上記を参考に、是非自分なりのスタイルを探ってみて下さい。
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