ブラジル音楽はコード・リズム共に多彩であることが有名ですが、中でも日本でなじみのある「ボサノバ」のコード進行を紐解くことは、コードに対する理解を深めるのに役立ちます。
私自身もボサノバを弾き始めるようになってもう10年ほど経つものの、未だにその独創的なコードの流れに驚かされることが多いです。
こちらのページではそんなボサノバの定番ともいえるコード進行を、10パターンほどご紹介していきます。
作曲や演奏のレベルアップに役立てていただけるとありがたいです。
ボサノバ定番コード進行(メジャーキー編)
「イパネマの娘(Garota de Ipanema)」風コード進行
「CM7(9) → D7(9) → Dm7(9) → G7(13)」
ボサノバにおける「超定番なコード進行」と呼べるのが、こちらの構成です。
ポイントとなっているのは二つ目の「D7(9)」で、こちらはノンダイアトニックコードの「II7」にあたります。
このコードは通常「ダブルドミナント」として「V7(この例の場合G7)」に結びつきますが、ここではその前に一旦「Dm7(9)」が挟まれているところが特徴的です。
この曲以外にも
- 「デサフィナード(Desafinado)」
- 「がちょうのサンバ(O pato)」
- 「偽りのバイーア娘(Falsa Baiana)」
など、いろいろな曲で同じコード進行が活用されています。
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ダブルドミナント ドッペルドミナント II7コード=ドミナントにつながるドミナント の詳細と使用例の解説
「波(Wave)」風コード進行
「Dm7(9) → G7 → Dm7(9) → G7」
こちらの曲のキーは「D」ですが、イントロ部分ではこのようなコード進行によって「Dm」が押し出されています。
ボサノバでは、この例のようにメジャーキーとマイナーキーが並列に扱われ「同主調転調」のような形になっている曲がいくつも存在します。
このコード進行は、「キー=Dm」と捉えるとポップス・ロックなどにもよくある構成だと解釈できますが、転調によってそれを特徴づけているような形となっています。
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「同主調転調」の解説(同じ中心音を持つマイナーorメジャーへの転調)
「トリスチ(Triste)」風コード進行
「GM7 → G6 → E♭M7 → A♭7」
この曲ではコード進行に「♭VI」のコード(E♭M7)が活用されており、特にそれを強く押し出すような構成となっています。
その部分でコードが一時的にキーから大きく外れ、ここでも転調したような響きが生まれます。
これも、前述した「同主調」のキーにあるコードを活用したものとして解釈できます。
「小舟(O barquinho)」風コード進行
「CM7(9) → F#m7(11) → B7」
こちらのコード進行は理論的な解釈が難しいものですが、この後に配置されたコードを前提とすると、末尾にある「B7(VII7)」はそこにつなげるためのものとして捉えることができます。
また、「F#m7(11)→B7」はそれをツーファイブによって分割したものです。
特に本作ではこのコードの流れを平行移動によって三つ連ねるような構成となっており、響きが重視されているようにも感じます。
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ツーファイブとは?(概要と基本的な成り立ち、活用方法、マイナーキーにおける例など)
「ワンノートサンバ(Samba de uma nota so)」風コード進行
「G#m7 → G7 → F#m7(11) → F7(#11)」
ボサノバの曲の中でも、恐らくアイディア先行で作られているのが本作で、こちらも定番のひとつとして知られています。
曲名にある通り、「ワンノート=ひとつの音」を繰り返す、という点がこの曲のテーマとなっています。
具体的には、このコード進行におけるすべてのコードに「シ」の音が共通して含まれており、ボーカルのメロディラインはその単音のみを使って
と歌われていきます。
その音が時としてコードの3度の音になったり、「F#m7(11)」というコードにあるように「11」のテンションになったりする面白さがあります。
そのようなアイディアを曲としてきちんと成立させてしまうところに、作曲者の技術力を感じます。
「トリステーザ(Tristeza)」風コード進行
「FM7 → Fm7 → B♭7(9) → E7」
このコード進行は本作の中盤にあたる部分から抜粋したもので、キーのサブドミナントである「FM7(IVM7)」がマイナーに変化し、そこからツーファイブの形を作る、という構成になっています。
このように、特定のメジャーコードをそのままマイナーコードに変化させるような構成は良く見かけます。
またそこから「E7」につながっているところは若干強引にも感じられますが、音として聴いてみると違和感なく受け入れることができます。
「エモルドゥラーダ(Emoldurada)」風コード進行
「DM7 → Gm6 → DM7 → D7(9)」
メジャーキー編の最後はいわゆる「ボサノバ」とは若干違いますが、ブラジルの著名アーティスト、イヴァン・リンスによって作られた美しいコード進行で、セッションやライブでも定番になりつつあるためこちらに加えました。
サブドミナントコードをマイナー(Gm)にしてトニック(D)の間に挟んでいる形で、マイナーシックスの響きがメロディに対する心地良い伴奏になっています。
このように、シンプルな「トニック→サブドミナント→トニック」という構成でも、そこに6度の音を加えたり、メジャーセブンスで装飾をしたりすることで聴きごたえが生まれます。
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サブドミナントマイナー(コード) その概要と使い方
ボサノバ定番コード進行(マイナーキー編)
「おいしい水(Agua de beber)」風コード進行
「Bm → Bm7onA → A♭dim → Gdim」
こちらもボサノバの象徴といえるような曲で、マイナー系ボサノバの定番として真っ先に思いつくコード進行です。
ポイントとなっているのはベース音の動きで、冒頭の「Bm」からベースが
と下がっていく形となっています。
ここからコードはまた「Bm」へとつながっていきますが、末尾にある「Gdim」はそこにつながるドミナントセブンスコードの「F#7」を代理したものだと解釈できます。
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ディミニッシュコード 概要と使い方などの解説・パッシングディミニッシュ・セブンス置換
「想いあふれて(Chega de saudade)」風コード進行
「Gm7 → Gm7onF→ A7 → E♭m6 → D7」
マイナーキーが持つ哀愁のある雰囲気をそのまま曲にしたような作品がこちらで、ここでも冒頭でベース音が下がる構成となっています。
また、二つある「A7」「D7」のコードもこの曲から感じられる不安定な響きをより強める働きをしています。
「E♭m6」のコードは、「エモルドゥラーダ」の部分でご紹介した「サブドミナントマイナー」のコードをマイナーキーで表現したようなものです。
「マシュ・ケ・ナダ(Mas que Nada)」風コード進行
「Gm7 → D♭7 → C7 → Fm7」
躍動感のあるボサノバの定番として、一般的にも認知されているのがこちらの曲です。
ここで挙げているコード進行は、その中でも曲の中盤にあるトニックの「Fm7(Im7)」に戻ってくる構成を抜き出したものです。
このうち「Gm7→C7→Fm7」はツーファイブワンの形で、そこに「D♭7」が挟まれていることがわかります。
原曲では短いタイミングで次々とコードが変わっていき、それが曲の持つ勢いや多彩なサウンドを生んでいます。
まとめ
改めてボサノバ定番のコード進行をまとめてみると、キーに含まれないコードがさまざまな解釈によって導入されており、それによって複雑な展開が生まれているとわかります。
その響きこそがまさにボサノバにおけるコード進行の面白さであり、そこからはいわゆる通常のポップス・ロックには無いハーモニーのセンスが感られます。
上記でご紹介したようなボサノバのコード進行を改めて楽器で弾きながら、その響きを是非味わってみて下さい。
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