「歌」には特別な魅力があり、私自身もポップス・ロック専門の作曲の先生として、特にボーカルメロディのある曲作りについて、長く追及してきました。
こちらのページでは、数ある作曲の中でも特にその点を掘り下げ、
ボーカルメロディ(歌)の作り方とコツ
について詳しく考えていきます。
目次
ボーカルメロディを作るための大前提
まず、ボーカルメロディを作るためには「歌いながら作る」というやり方がその大前提となります。
これについて、詳しくは以下のページでも解説しています。
歌もの(ボーカルメロディのある曲)を作曲するためのコツ|歌いやすい、歌いたくなる曲を作るためには?
ボーカルメロディの制約
上記ページでも述べている通り、そもそもメロディには大きく分けて
- 歌のメロディ(ボーカルメロディ)
- 楽器等のメロディ
の二種類が存在しています。
「1」はまさに読んで字のごとく「歌によって表現されるメロディ」のことを指し、これはこちらのページでテーマとしている「ボーカルメロディ」そのものです。
そして「2」はそれ以外で、こちらは楽器によって表現されるメロディや、その他にデジタルサウンドによって表現されるメロディなどもこちらに分類されます。
それぞれに特性がありますが、一般的に「歌のメロディ」は不自由で制約が多いもので、反面で楽器等によるメロディは自由にコントロールできるものとされています。
もちろん、特殊な管楽器など、指使いや息のコントロールなどによって歌と同じくメロディのコントロールに制限の多い楽器なども存在しています。
そのうえで、一般的にボーカルメロディには以下のような特性があります。
- 不自然・急激な音階の変化を表現できない
- 複雑なリズムを表現できない
- 息継ぎをする必要がある
- 高すぎる音、低すぎる音が出せない(通常、歌いやすい音域は2オクターブ弱程度)
これらは、例えば激しいエレキギターソロなどを口に出して歌うのが難しいことなどからも理解できます。
ボーカルメロディを作るにあたり、これらをどう乗りこなすかがひとつのポイントとなります。
歌うことによって、「歌った感じ」を確認しながらメロディを作れる
冒頭で述べた「歌いながら作る」というやり方は、この特性・制約を体感しながらメロディ作りをするということにつながります。
つまり、歌いながらメロディを作ることによって
- 歌えるか
- 歌いやすいか
- 歌って心地良いか
などを確認しながら作曲を進めていくことができるのです。
「ボーカルメロディをどう作るか?」を考えるにあたり、まずこの「歌いながら作ること」を基本的な制作のスタイルとして下さい。
ボーカルメロディの具体的な作り方やコツ
ボーカルメロディを作るために考えるべきは、上記で挙げた
- 歌えるか
- 歌いやすいか
- 歌って心地良いか
という点です。
それを踏まえ、ボーカルメロディの具体的な作り方やコツについて考えていきます。
1. 自然な音階の変化を持ったメロディにする
まず、前述した
不自然・急激な音階の変化を表現できない
というボーカルメロディの特性を踏まえ、作るメロディが「自然な音階の変化を持ったメロディ」になるよう配慮しましょう。
これには、音の進み方を意味する「順次進行」「跳躍進行」という概念が活用できます。
▼関連ページ
「順次進行」「跳躍進行」の解説と、それらを活用したメロディ作りのアイディア
「順次進行」を多く取り入れる
上記ページで詳しく解説しているとおり、メロディは近い音に進ませるほど音階の変化がなだらかになり、自然な雰囲気が生まれます。
ピアノの鍵盤でいう
- ド→レ
- ファ→ミ
などの進み方がそれに相当しますが、これらを「順次進行」と呼びます。
「自然な音階の変化を持ったメロディ」を考える上では、この順次進行を多く取り入れることがひとつの目安となります。
つまり
レ→ソ→ド→ラ~
のように音が大きく変化するメロディよりも、
レ→ミ→ファ→ミ~
のように、音階を順番に上ったり下りたりするメロディをなるべく多めに取り入れる、ということです。
これにより音階の変化がより自然なものになり、メロディがより歌いやすいものになっていきます。
個性を出すためには「跳躍進行」も必要
もちろん、順次進行のみによって作られたメロディは音階の変化が少なく自然である反面で、
- 変化に乏しい
- 幼稚
というような印象を与えてしまうこともあります。
そこでポイントとなるのが「跳躍進行」になる部分を適度に盛り込む、という点です。
「跳躍進行」は、簡単にいえば順次進行の範囲にとどまらない大きめの音階変化のことを指しますが、そのような部分が盛り込まれていることで部分的に音の変化がいびつになり、その分メロディが個性的なものに感じられます。
例えば、前述した順次進行のメロディ
レ→ミ→ファ→ミ~
の中で、部分的に
レ→ミ→ソ→ファ→ミ~
※赤字部分が跳躍進行
のような箇所を盛り込むことで、歌いやすく、それでいて個性もある、というようなメロディにしていくことができます。
これらを整理すると、ボーカルメロディを作るにあたり
- メロディは順次進行をメインとして作る
- その中で、部分的に跳躍進行になるところを盛り込む
というやり方が、ひとつの目安となりそうです。
小さめの跳躍進行などはそこまで不自然な雰囲気を与えないため、それらをあえて連続させるようなメロディの作り方も想定できます。いずれにしても「自然な音階の変化+少しの個性」という点を意識しましょう。
音階を動かさない、というアイディア
上記で述べた「順次進行」「跳躍進行」と共に活用できるのが「音階を動かさない」というやり方です。
これは、例えばメロディを
ソソソソーソソソ…
のような音階を持ったものにすることを意味します。
音の変化が無いため順次進行よりもっと退屈なものだと感じられてしまいそうですが、ボーカルメロディではこのようなスタイルも十分に許容できてしまいます。
実際のところ、ヒット曲にはこのような「同じ音を連続するメロディ」が多く盛り込まれているもので、以下のページではそれらを「同音連続型のメロディ」として定義しています。
作曲のコツ|メロディの形三種のご紹介(同音連続・ギザギザ・音跳び)
これらも踏まえ、ここで取り上げている「自然な音階の変化を持ったメロディ」を作るためには、
- 同じ音を繰り返す
- 順次進行
- 跳躍進行
をバランスよく配分することがポイントとなります。
2. 自然なリズムを持ったメロディにする
ボーカルメロディの特性として既に述べた、
複雑なリズムを表現できない
という点を考慮すると、上記「音階」とあわせて「リズム」においてもより自然なものを追求すべきだといえます。
音数を減らしてゆったりしたリズムを持つメロディにする
例えば速いテンポの曲で、ボーカルメロディが
「タタタタタ…」
と刻むようなリズムによって成り立っていたら、それはとても歌いづらいものに感じられてしまいます。
「歌える」「歌いやすい」を実現するためにはボーカルメロディにゆとりのあるリズムを取り入れる必要があり、例えば以下のように音数そのものを減らすことはそのアイディアとなります。
このように、音符の種類やつながりによって緩やかな雰囲気が出るよう、メロディのリズムを作り込んでみて下さい。
メロディを関連付ける
また、メロディの形を関連付け、同じフレーズを繰り返すようなものにすることで心地良いリズムが生まれます。
以下はその例です。
ここでは、
ミファソ・ミファソ・ミファソ…
と、三音によるフレーズを繰り返して大きなメロディを生み出しています。
「自然なリズムを持ったメロディ」を考えるうえで、このような「フレーズ同士の関連性」を生み出すこともひとつのヒントとなるはずです。
3. 息継ぎの部分を盛り込む
ボーカルメロディを考えるうえで欠かせないのが「息継ぎ」への配慮で、メロディの間にはその部分に相当する「メロディが途切れるところ」を盛り込む必要があります。
これは、既に解説した「歌いながら作る」ということを実践すれば必然的に満たすことができます。
歌いながらメロディを作れば必然的にその中で息継ぎが必要となり、できあがるメロディの中に「息継ぎの部分=途切れるところ」が自然と盛り込まれることになるからです。
なお、注意すべきは短いフレーズをつなぎ合わせながら大きく展開させていくような場合です。
できあがったメロディは、必ずひと通り歌ってみて、「息継ぎ」という観点で無理がないかを確認して下さい。
4. メロディの中に高すぎる音や低すぎる音が無いようにする
最後にご紹介するのが、「歌のメロディ」の特性である
高すぎる音、低すぎる音が出せない
という点に配慮しながらボーカルメロディを作る、ということです。
メロディを作る際にはボーカリストが歌える音域を明らかにし、その「最高音」と「最低音」を踏まえてメロディラインを組み立てるようにします。
それにより、メロディの中に「高すぎる音」「低すぎる音」がなくなり、メロディが歌いやすいものになります。
高い音・低い音の連続を避ける
同じような観点から、高い音・低い音が連続するようなメロディの構成も避けるべきです。
ぎりぎり歌えるような高い音を盛り込むにしても、それを部分的にしてボーカリストの負担を減らすなどの配慮が必要です。
また、特にそのような高音部・低音部は歌い回しのコントロールが難しい部分でもあるため、音階が細かく動くような構成についてもなるべく避けるべきだといえるでしょう。
メロディを適正音域に収める
一般的に、誰もが無理なく歌える音域は、目安として「1オクターブ半程度」だとされています。
つまり、メロディがその音域内に収まっていれば、例えば歌の中に高すぎる部分があったとしても、全体の音域を下げることで低音部分に影響を与えず済みます。
反対に、メロディ全体の音域が適正音域を超えている場合、
高すぎる部分のために全体を下げる→低すぎる部分が生まれてしまう
というような事象が発生してしまいます。
これらを踏まえると、「高すぎる音、低すぎる音」に配慮するということは、「適正音域(1オクターブ半程度)に配慮してメロディを作る」ということとも言い換えることができます。
メロディ作りに強くなる本
メロディ作りのコツについて、「メロディ作りに強くなる本」というコンテンツとしてまとめています。 「メロディ作りに強くなる本」のご紹介
まとめ
ここまでに述べた「ボーカルメロディの作り方」をまとめると、以下のようになります。
- メロディが自然な音階になるよう、順次進行を基本として作る
- ゆったりとしたリズム、関連付いたリズムなどを使い、自然なリズムを持ったメロディにする
- 息継ぎの部分を盛り込む
- 適正音域に配慮してメロディを作る
もちろん、これらをあえて無視すればその分歌いづらいものになりますが、反面で「ボーカルメロディ」としては個性的なものになっていきます。
これらの点を踏まえつつ、そこへいかにしてオリジナリティを盛り込むか、という点が求められます。
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