コードの内声のみを半音ずつ変化させる

コードの内声を変化させていく「クリシェ」の技法は、ロック・ポップスの中でしばしば見かけることが出来ます。

「クリシェ」とは、直訳では「常套的な表現」という意味となりますが、コード進行の技法の場合には、あるひとつのコードの中の音を順番に下げたり上げたりして、コードそのものを変化させていくやり方を指します。

三和音は「一度」「三度」「五度」の三つの構成音によって成り立っており、クリシェではそれらを上げたり下げたりしながらコードをつなげていきます。下記はダイアトニックコードのIをクリシェによって展開させた例です。

Iの一度音下降型クリシェの例:キーC
  • I → IM7 → I7 → I6 (C → CM7 → C7 → C6)

一番目のコードである「I」を起点として、二番目のコードでは、一度の音を半音下げた「長七度」を付加した「IM7」が使用されています(根音である一度の音は基本的に保持し、一度音をオクターブ上の「八度」と捉えて、それを下降させるかたちでコードを作っていきます)。三番目のコードでは、その変化音をさらに一音下げ「短七度」を付加した「I7」が使用され、四番目も同様に、さらに半音下げた「長六度」を付加した「I6」を使用しています。

四つのコードの動きを通して、コード構成音の一度=八度が「八度→長七度→短七度→長六度」と半音ずつ下がっており、コードを連続して鳴らすことで音の変化を感じることが出来ます。

「コードの中の一度の音を順番に下げていく」という発想が前提としてあって、その構成を作った結果として「I7」と「I6」がノンダイアトニックコードとして違和感なく使用できていることがわかります。

また、クリシェは基本的に根音(一度音)が保持されるため、コード進行としての安定感が保たれることも特徴です。

一度(八度)の音を下降させるクリシェはマイナーコードにも頻繁に使用されています。下記はダイアトニックコードの「VIm」をクリシェによって展開させた例です。

VImの一度音下降型クリシェの例:キーC
  • VIm → VImM7 → VIm7 → Vm6 (Am → AmM7 → Am7 → Am6)

Iの例と同様に、起点となる「VIm」の一度音を下降させています。コードにそれぞれ「M7」「7」「6」が付加されていくのは「I」の場合と同様で、同じく下降していく八度音の変化を体感することが出来ます。

この例では「VImM7」と「VIm6」の二つのコードがノンダイアトニックコードとなります。前述の例も含め、一度音下降型のクリシェは、主にダイアトニックコードの「I」「IIm」「VIm」に使用されます。

上記の例とあわせて、クリシェの手法として「五度音の上昇」もよく見かけられます。下記はその例です。

Iの五度音上昇型クリシェの例:キーC
  • I → Iaug → I6 → I7 (C → Caug →C6 → C7)

Iを起点として、二番目のコードでは、その構成音である五度音を半音上げ「増五度」とした「Iaug」(Iオーギュメント)が使用されています。次いで三つ目のコードとして、その変化音をさらに半音上げ「長六度」を付加した「I6」がつながり、四つ目には同じくそれを半音上げ「短七度」を付加した「I7」がつながっています。

コードのつながりにより、五度音が「五度→増五度→長六度→短七度」と上昇していることが体感できます。一度音下降型のクリシェに比べて五度音上昇型のクリシェは使用される範囲が狭く、ダイアトニックコードの中ではIのみに使用されることがほとんどです。このコード進行の場合には「Caug(Iaug)」「C6(I6)」「C7(I7)」がノンダイアトニックコードとなるため、調性内の響きを前提とした場合、全体的に耳慣れない印象を受けます。

クリシェは、ひとつのコードを保持する、という発想が基本としてあるため、その響きに落ち着いた雰囲気があります。同一コード数小節の上にメロディを乗せていく感覚で、コードだけに少しずつ変化音を加えていくようにメロディをつけていくと、ドラマチックで安定感のある展開を構成していけるはずです。 →次項『クリシェ~その2~』

(動画でも解説しています【動画で作曲講座:クリシェ】


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