「メロディを作ること」は言うまでもなく作曲の中核を成す作業ですが、反面で、それに特化した教則本は思いのほか少ないのが現状です。
そんな中で、こちらでは
- どのような観点に沿ってメロディを作ればいいのか
- メロディを作る際、どんなことに気を付けなければいけないのか
などが具体的に学べる二冊の本をご紹介します。
現在メロディ作りに悩んでいる人は、是非参考にしてみて下さい。
目次
二冊の本の概要と「メロディ作り」系の本の現状
今回ご紹介する本は、
- 「メロディの作り方」中田喜直著
- 「ジャズ・コンポジション」テッド・ピース著
の二冊です。
1の著者は「めだかの学校」「ちいさい秋みつけた」などを作曲した中田喜直さんで、こちらは主に歌のある曲のメロディ作りについて学べる本です。
また、2はアメリカの「バークリー音楽大学」におけるジャズ作曲の授業を書籍化したもので、その中の第1章、50ページほどに渡ってメロディ作りについての解説があります。
こちらはジャズの作曲について書かれた本であることから、主に楽器によって演奏されるメロディを前提としたものです。
もちろん、同じ概念を歌メロディにも流用できます。
「メロディ作り」を扱った本について
私は仕事柄いろいろな作曲関連本に目を通していますが、冒頭でも述べた通り、こと「メロディの作り方」という点に絞るとそれを詳しく解説した本を見つけるのは思いのほか難しいです。
正確には、多くの作曲教則本ではもちろんメロディ作りについてページが割かれているものの、そこで語られていることの多くは概念や一口メモのようなものばかりです。
メロディ作りに悩んでいる人が知りたい、
音を具体的にどう進めて、どんな観点からメロディを作ればいいのか
という点について、具体例などを出しながら詳しく解説している本はほとんどありません。
そんな中、こちらでご紹介する二冊は珍しくそれを満たすもので、特に上記1の書籍は既に絶版となっていますが、とても参考になるため取り上げさせていただきました。
それぞれについて、これ以降でより詳しくご紹介します。
「メロディの作り方」中田喜直著
本書の初版は1960年で、かなり古い部類に入るものです。
既に述べた通り現在では絶版となっていますが、実に有益な書籍であることから近いうち復刊されるのではないかと予想しています。やや高価ですが古本で入手ができ、また図書館などに置かれていることもあります。
「メロディの作り方」というタイトルの通り、本書では「歌のメロディをどのようにして作るべきか?」という具体的なアドバイスが細かく語られています。
書籍はB6サイズで小さく、かつページ数も100ページ弱のため若干簡素に感じられますが、中身は濃いです。
歌詞とメロディのイントネーション
歌にはもちろん「歌詞」という存在があり、それを作るうえでは言葉の持つイントネーションを考慮する必要があります。
歌メロの作曲を考える際にはこの点がネックとなることも多く、本書の解説はまずそこから始まっています。
著者が当時の職業作曲家であったことから、歌詞が先にあることを前提としていますが、もちろんこの概念は「メロディが先にあって、そこに歌詞を付ける」というやり方にも活用できます。
メロディの構成
また、本書ではメロディの持つ構成やまとまりについても述べられており、これは曲を親しみやすく、覚えやすいものにするための具体的なアドバイスです。
この点において著者は
有名な曲のメロディーを分解して、その構成を知り、最初はそれを参考にして、ある程度模倣するやり方で作ってみるのも一つの方法です。
と述べており、いわゆる
- 曲を分析すること
- 曲をカバーすること
を明確に推奨しています。
また、本書には童謡を中心としたさまざまな曲のメロディ譜が沢山掲載されており、このような点からも理解をより深めることができます。
リズムへの配慮
私が個人的に一番感銘を受けたのは「付点音符」に関する著述です。
同じような観点から、シンコペーションのメロディについてもそれに付随して少し解説があります。
童謡「赤とんぼ」を例に挙げ、付点音符がある場合とない場合を比較していますが、このような解説は、まさにメロディ作りを学びたい読者の知りたいところであるはずです。
それ以降もさまざまな曲における付点音符の使われ具合が紹介されており、そのようにリズム的な観点からメロディ作りが学べるというのは大きいと感じます。
その他と総評
本書にはそれ以外にも「調」や「拍子」などについても解説があり、読み通すことで
- 「歌のメロディを作る」とはどのようなことか
- どんな観点に沿って「歌」を作ればいいのか
ということが具体的に理解できるはずです。
また、著者は締めくくりの部分において
よいメロディーを作るには、やはりコツコツと長い間いろいろ研究して、次第によいものを作り上げていくよう努力することが大切
と述べています。
このように、作りながら上達を目指すべきだとまとめる姿勢にも好感が持てました。
「ジャズ・コンポジション」テッド・ピース著
もう一冊ご紹介する書籍は、タイトルの通り「ジャズの作曲」について述べられた教則本です。
既にご紹介した「メロディの作り方」がどちらかといえば邦楽的であったのに対し、こちらは「ジャズ」というジャンルからもわかるとおり、洋楽的なメロディ作りについて学べる本です。
楽器によるメロディを前提としていながらも、内容はポップス・ロック等のボーカル曲に流用できます。
作曲法解説本における「メロディの作り方」の章
本書はそもそも作曲法全般を解説する書籍であるため、ハーモニーや曲の様式、ジャンルなどに関する記述も多いです。
その中で、「メロディの考察」と題してメロディ作りに関する具体策が第1章で論じられていることから、この部分が著者の最も伝えたいことなのではないかと想像できます。
50ページほどの解説で、かつ専門用語や切り口は若干高度でありながらも、内容はとても細かく、これが第1章に設けられている理由がそこからわかります。
ラインを大切にしたメロディ作り
著者は本書で、メロディ作りにおいて「ラインを大切にするとよい」というアドバイスを行っています。
ガイドトーン・ラインやコンパウンド・ラインを用いたメロディ作りは、それにあたるものです。
解説を読み解くにはスケールやコード構成音の知識が必要となりますが、それでもこのような観点からのアドバイスは、特にインスト系の曲作りをしている人にとって大きなヒントとなるはずです。
音声やエクササイズページもあり
また、付属のCDによる音声での確認、エクササイズページにおける実習など、学習者の理解を深めるための配慮が随所に感じられるところも、本書の良い点です。
このあたりは、音楽学校における講義がそのもとになっている、というところも大きいと考えられます。
とはいえ、本章で確認できる音声は数トラック程度で、ある程度楽譜を読み解く力が必要になることも確かです。
その他と総評
上記以外にも、
- スケール内の音、スケールから外れる音
- モチーフとフレーズの関係性
- インターバル(音程)に関する考察
などについて解説があり、これらはいかにも「バークリー的なもの」だと感じられます。
上記を踏まえると、現代のポピュラー系理論をもとにしてシステマチックにメロディを構築していきたい人にはうってつけの本だといえます。
番外編
メロディ作りのコツについて、私も「メロディ作りに強くなる本」というコンテンツとしてまとめています。 「メロディ作りに強くなる本」のご紹介
まとめ
こちらでご紹介した二冊の本は、既存の書籍の中でも特に具体的なメロディ構築の手法が語られたものに分類されます。
もちろん「これを読めば今すぐに良いメロディが作れる」というほど簡単なものではありませんが、現在行き詰っている人にはなんらかのヒントを与えてくれるはずです。
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