こちらのページでは、「ノスタルジック」というキーワードをテーマに、おすすめのコード進行をいくつかご紹介していきます。
この「ノスタルジック」という言葉は「昔懐かしい」というようなことを意味するもので、そこから転じて「郷愁」や「故郷を感じる」等の意味でも使われるものです。
是非そのような雰囲気を持つ曲作りに、これらのコード進行を活用していただきたいです。
※さまざまなサウンドを感じるために、こちらではあえていろいろなキーでコード進行をご紹介していきます。
目次
ダイアトニックコードのみを活用したコード進行
1. ダイアトニックコードを順番に上げていく
「G→Am→Bm→C」
ダイアトニックコードにおけるひとつ目のコードから「1→2→3→4」と順番につないだだけのコード進行です。 ダイアトニックコードとスリーコード 概要や成り立ち、コードの役割などについて
着想はとてもシンプルですが、個人的に「ノスタルジック」と言われて真っ先に思いつくのがこちらの構成です。
ルート音が順番に上昇していく心地良さがあり、音の変化もスムーズ、かつダイアトニックコードのみによる構成のため響きも安定しています。
ノスタルジックな楽曲として知られているビートルズの「Here, There and Everywhere」にもこちらのコード進行が活用されています。
2. トニックを登場させない
「Gm→C→Am→Dm」
こちらのコード進行は、「キー=Fメジャー」でありながら「F」のコードが登場しない、というような構成になっています。
それにより、トニックコードの持ついわゆる「決まりきった響き」が排除され、独特な不安定さから続きが聴きたくなるような雰囲気が生まれています。
このように、ダイアトニックコードのみによる構成でも扱うコードによってノスタルジックなムードは演出できます。
ダイアトニックコード以外を活用したコード進行
1. セカンダリードミナントの活用
「A→C#7→F#m」
「ノスタルジック」を「懐かしい=切ない」と捉える場合に重宝するのが、「セカンダリードミナントコード」です。 セカンダリードミナントコード 成り立ちとその表記などをわかりやすく解説します
こちらの例では「C#7」がそれにあたり、「キー=Aメジャー」のダイアトニックコードでは本来三番目のコードが「C#m」となるところ、それをセブンスコードとしています。
詳しい解説は割愛しますがこのコードは後の「F#m」につながる働きを持っており、それによって一瞬マイナーキーに転調したような響きが生まれます。
このように、ダイアトニックコードのみにとどまらずそこに含まれないコード(=ノンダイアトニックコード)をいかに活用するかが、ノスタルジックな雰囲気を生み出す鍵となります。
2. セカンダリードミナントのツーファイブ化
「A→G#m7-5→C#7→F#m」
こちらは上記のコード進行をさらに発展させたもので、「ツーファイブ」の観点から「C#7」に向かう「G#m7-5」のコードを導いています。 ツーファイブとは?(概要と基本的な成り立ち、活用方法、マイナーキーにおける例など)
この「G#m7-5」も前述したノンダイアトニックコードに相当するもので、同じく「F#m」の持つマイナーの雰囲気をより強めるものです。
「C#7」単体での使用に比べて、さらにノスタルジックな雰囲気が強く感じられます。
「G#m7」ではなく「G#m7-5」になっているところが、このような響き感じさせるポイントです。
3. サブドミナントマイナーの活用
「E→Am→E→Am」
この例における「キー=Eメジャー」では、本来ダイアトニックコードの四番目に「A」というコードが扱われます。
こちらではそれをマイナーとした「Am」をつないでおり、その微妙な変化がノスタルジックな響きを生んでいます。
このコードは、サブドミナントコード(四番目、IV)をマイナーにしていることから「サブドミナントマイナーコード」などと呼ばれるものです。 サブドミナントマイナーコードの活用とメロディへの応用
特筆すべきは、これを「Am→E」のように直接一番目のコードにつなげているところで、それによって静かに落ち着くような雰囲気が感じられます。
サブドミナントマイナーコード単体でも十分に切なげなムードが感じられ、さらにそれをどのように配置するかがノスタルジックなサウンドを強調するためのポイントといえます。
4. 「Vm」の活用
「C→Gm7→C7→F」
こちらは、トニック「C」からノンダイアトニックコード「Gm7」および「C7」を経由して「F」につながる構成です。
この「Gm7」および「C7」は、前述した「セカンダリードミナント」をツーファイブによって発展させたものです。
本来、メジャーコードに向かうセカンダリードミナント(この例における「C7=F」)からはそこまで切なげな雰囲気が生まれないものの、ここでは「Gm7」がより効果的に働いています。
本来のドミナントコード「G(V)」がこのアイディアによってマイナーコードになっている、というところが特筆すべき点だといえます。
このように、ノスタルジックな曲調を意識する際にはセカンダリードミナントコードが全般的に効果的な響きをもたらします。
5. クリシェの構成
「D→Daug→D6→Daug」
次にご紹介するのは「クリシェ」の手法を活用したものです。 クリシェの技法解説 コード進行におけるクリシェの概要と典型的な使用例、アレンジ例など
上記別ページでも詳しく解説している通り、「クリシェ」とはあるコードの構成音のうち、主に1度の音、または5度の音のみを順番に上げたり下げたりしながら、つなげる手法のことを指す言葉です。
ここでは、「D→Daug→D6→Daug」というコードのつながりによって、「D」のコードにある5度の音「ラ」が、
のように変化しています。
半音の変化が寂しげな雰囲気を生み、それと同時にコードが変わっても保持され続けるルート音「レ」の音が安定感を生み出しています。
この「クリシェ」の手法も、「ノスタルジック」を演出する際、頻繁に活用されます。
6. パッシングディミニッシュを含む構成
「G→G#dim→Am→D7」
ディミニッシュコードも「ノスタルジック」をテーマとする際によく候補に挙げられるもののひとつです。 ディミニッシュコード 概要と使い方などの解説・パッシングディミニッシュ・セブンス置換
こちらの例では「G#dim」が活用されていますが、このようなコードは「パッシングディミニッシュコード」などと呼ばれます。
直前にある「G」と直後にある「Am」の、それぞれのルート音「ソ」「ラ」の間を埋めるように「ソ#」をルートとした「G#dim」を活用する、というやり方です。
前述した「クリシェ」にも似た半音の変化と、ディミニッシュコードの持つ独特な響きがノスタルジックな雰囲気を高めています。
7. 装飾的なディミニッシュコード
「G→B♭dim→Am→D」
上記と同じく、ディミニッシュコードを活用した構成としてこのようなコード進行も想定できます。
ここでの「B♭dim」は「A7」の代理コードに似たサウンドを生んでいますが、どちらかというと装飾的なものに近いとも解釈できます。
ディミニッシュコード自体が単体でノスタルジックな魅力を持つコードであるため、この例のように響きを優先させて活用することもできます。
8.「♭VII」のコードを効果的に使う
「D→C→G→D」
こちらの例では「C」のコードに特徴的な魅力がありますが、これはロックなどでよく活用される「♭VII」のコードにあたるものです。 フラット系三種のノンダイアトニックコード 同主調マイナーからの借用
同主調から借用されたこのコードにはどことなく暗い雰囲気があり、コード進行のアクセントとしてよく活用されます。
「ノスタルジック=戻らない過去、遠く手の届かないもの」というような解釈によって、このようなコードの使用も検討することができます。
9. 分数コードによるルートの半音進行
「A→EonG#→G→DonF#」
この例のように、分数コード(オンコード)もまた同じく切なげな雰囲気を高めるコードとして頻繁に活用されます。 分数コード (オンコード、スラッシュコード)詳細と主な種類、代表的な活用方法などについて
ここでは「EonG#」「DonF#」という二つのコードが活用されています。
また、さらにポイントとなっているのがその間に配置された「G」のコードで、これは前述した「♭VII」のコードです。
これらによって、
A→G#→G→F#
と順番に下がるルートの流れが生み出されており、その半音の変化がノスタルジックな響きを作り出します。
ここまでに何度も述べているように半音進行は切ない雰囲気を生み出す響きとしてよく活用されますが、このような分数コードのアプローチによってそれをより柔軟に組み立てることができます。
ダイアトニックコードの分数コードによるアレンジ
1. 分数コードによって安定感を高めるコード進行
「C→Dm7onC→C→Dm7onC」
最後にご紹介するのは、上記と同じく分数コードを活用した構成です。
こちらでは「Dm7onC」というコードを配置していますが、その前後につながる「C」のコードとあわせてベース音「C」が保持され続けるという面白さがあります。
このように分数コードは流れをつくるだけではなく、ルート音の動きをとどめるためにも活用されます。
「安定感を生み出す」という意味では、前述したクリシェの用法に近いものとも解釈できます。
「Dm7onC」の持つ独特な響きと、上記安定感によって「落ち着いた懐かしさ」のようなものが感じられるコード進行です。
まとめ
今回テーマとした「ノスタルジック」という言葉の持つ雰囲気は、実際のところ人によっても変わるはずです。
それでも、こちらでご紹介したコードのつながりからはなんらかの「懐かしさ」や「二度と戻らないものへのあこがれ」のようなムードが感じられるかと思います。
実際に楽器などで音を出しながら、その響きを味わってみて下さい。
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