「ザ・ジャズ・セオリー」(マーク・レヴィン著)のレビュー

ジャズ系の音楽理論を扱った書籍として知られている「ザ・ジャズ・セオリー」について、作曲の先生としての立場から

  • 実際のところどんな内容なのか?
  • 読みやすい?読みにくい?
  • 誰におすすめできる本なのか?

などの観点でレビューとして整理してみます。

▼以下のページでは音楽理論系の書籍全般についておすすめをご紹介しています。
音楽理論本おすすめ9冊|作曲にも演奏にも使える音楽理論の知識を書籍で身に付ける

本書の概要

こちらの本では、「ザ・ジャズ・セオリー」というそのタイトルの通り、主にジャズを演奏したり作曲したりするうえで必要となる音楽理論が解説されています。

そのうえでまず初めに述べておくと、本書の内容はそれなりに高度です。

そのため、例えば

これからポップス系の作曲を始めるために、その予備知識として理論を学んでおきたい

というような、初心者的なニーズに本書は向いていないといえます。

それよりも、ある程度の知識がすでに身についていて、それらをさらに深めたり、知識を応用して幅を広げたいというような人が手にすべき書籍だといえるでしょう。

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この書籍は大型本で、またページ数も470ページを超えるため、理論に馴染みの薄い人が本を手に取るとまずその存在感に圧倒されるはずです

各章の内容

本書の章立ては全部で5つあり、その中で「チャプター」と称して24の項目に沿って解説が進められていきます。

章の構成は以下の通りです。

  • Part1 理論:コードとスケール
  • Part2 メジャー・スケールとII-V-I進行
  • Part3 リハーモナイゼーション
  • Part4 チューン
  • Part5 その他の重要なこと

ジャズ~ポピュラー系音楽理論の二つの柱といえる「コード」「スケール」から解説が始まり、それを土台としつつよりレベルの高い内容に発展していく、というような構成となっています。

「Part4 チューン」は理論の解説無し

上記のうち「Part4 チューン」には5つのチャプターが含まれていますが、この章は音楽理論というよりジャズという音楽の形式や、ジャズを演奏するうえで知っておくべきことが述べられた部分です。

こちらに含まれる「チャプター:20」ではジャズの有名曲とその元ネタが一覧で掲載されており、あわせて次の「チャプター:21」ではジャズの演奏や分析に際する必須曲がこちらも一覧でズラズラと列挙され、この(理論とあまり関係のない)内容におよそ40ページほどが割かれています。

これを踏まえると、この「Part4」だけが本書の中で少し毛色の違う部分だと捉えることができます。

曲例(とその譜例)が豊富

「Part4」を除く他の章ではそれぞれの解説に伴って随所に譜例が掲載されています

そのほとんどは実在するジャズの楽曲を譜面に起こしたもので、さらにページ下部には、

  • その曲の作者(アーティスト名)
  • その曲が収録された主要なアルバム名
  • そのアルバムがリリースされたレーベル名
  • アルバムのリリース年

が明記され、これが音源による確認にとても役に立ちます。

「Spotify」や「Apple Music」「LINE MUSIC」などの各種サブスク音楽サービスでは新旧さまざまなジャズの名盤が聴けるため、解説を読みつつ、実際に譜面を演奏しつつ、さらにはページに記載された情報から実際の音源を確認する、というやり方が本書を読み進めるうえでの基本的なスタイルになります。

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個人的な感覚では、この書籍がジャズ理論書として広く認知されている理由はこの「実在の音源でしっかりその理論的効果を確認できる」という点にあると思っています。

解説内容の実際のところ

本書は中級以降のレベルに位置するジャズ理論書であるため、冒頭でも述べた通りその内容は初心者向けではなく、また基本的な理論が身についている人にとっても骨のあるものとなっています。

これは、簡単にいえば

「スラスラ読めてすんなり内容を理解できる書籍ではない」

ということですが、その要因のひとつとして個人的に「解説の不親切さ&まわりくどさ」があると感じています。

例えばあるひとつの理論的な概念を紹介する場合にも、まず初めに

「以下にある〇〇の譜例を演奏してみましょう」

といきなりなんらかの実例を投げかけ、そこからそれがどんな理論的分類に基づく演奏かを後付けでやんわりと解説する、というような流れを取っていることが多いです。

通常、このような理論的な事柄について読者が期待するのは、

  1. ××という理論的概念がある
  2. それは△△というような仕組みによって成り立つもの
  3. その理論によって通常の演奏をこんな風にアレンジできる
  4. その実例が以下の譜例にある〇〇
  5. この譜例のうちここが××に相当するところ
  6. 実際に音を聴くと、この理論ならではの効果が生まれていることがわかります…

というような順序による解説であるはずです。

本書の解説でその流れに沿っている部分はほとんど無く、さらには解説自体も比較的淡白です。

さらには、それほど納得もしていないうちに

「そして…」

という調子でその派生形のような概念へと解説が移っていく場面も多いため、消化不良のままページをめくっていくような局面が必然的に増えていきます

扱われている内容や切り口は興味深く素晴らしいものであるがゆえに、上記のような理由から、やはり解説の順序やつながりの悪さをもう少し改善してほしいと感じてしまいます。

理論書としての立ち位置

上記で述べたような本書の性質は「理論書」というところからくるものなのかなとも思えます。

というのも、私はこの「ザ・ジャズ・セオリー」とセットで語られることが多い、(同じ著者による)「ザ・ジャズ・ピアノ・ブック」とう書籍も所有しており(以下表紙画像)、

こちらの本の目的が「ジャズピアノが演奏できるようになること」というところにあることから解説がより具体的になり、理解しやすい順序やつながりによって展開されていると感じるからです。

一方、「ザ・ジャズ・セオリー」はあくまで理論書であるため、

「理論的概念やその実例を挙げることを重視する」

という経緯から、結果として説明のわかりやすさ(=読者にその理論を把握してもらい、それを使いこなせるようになってもらうこと)への配慮が置き去りになっているのではないか、と感じます。

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つまり「理論をどう実用につなげるか」という点まで解説が行き届いていない、ということです。

そのような意味から、即効性のある実用的手法を身につけたいという人よりも、音楽理論やその周辺に位置する知識をまんべんなく身につけ、自分なりに試行錯誤するための準備をしたい人こそが本書の読者として最も向いているのではないかと思えます。

洋書ならではの弊害

上記に加えて、本書には洋書翻訳本ならではの読みづらさもあると感じます。

その例として、チャプター3の中に含まれる「リディアン・モードとメジャー7th#4コード」という部分におけるひとつの解説文を以下の通り引用します。

「コード・シンボルに#4がついているのを目にするまで、メジャー7thコードに対して半音上げられた4thを演奏することを待つ必要はありません」

いかにも直訳文らしい語順を持つ文章だと感じられますが、これをなにげなく読んで、すぐに意味を理解できる人は少ないはずです。

恐らく、この文章が言いたいのは

「メジャー7thコードに対しては、半音上げられた4thが演奏できます。コードシンボルに『#4』が併記されているか/いないかは関係ありません」

ということだと思いますが、このように「意味が瞬時に理解できない文章」が本書のいろいろな場面で登場します。

特に洋書翻訳本に対して馴染みが薄い人からするとこのような文体はすごく取っつきづらく、さらには扱われている内容が理論的に込み入ったものであることから二重苦になってしまうはずです。

カタカナ語が多い

そして、洋書翻訳本としてのもうひとつの弊害がカタカナ語の多さです。

ページをパラパラとめくるだけでも、本当に多くのカタカナ語をそこから抜き出すことができます。

以下はその一例です。

  • チェンジ
  • ヴァンプ
  • リック
  • ルート
  • オルタレーション
  • クロマティック
  • リハーモナイズ
  • インプロヴァイズ
  • シークエンス

ちなみに、これらの言葉の意味はほとんどが本の冒頭で一覧としてまとめられており、またジャズ系の音楽理論書としてある程度は許容すべきとわかってはいるものの、それにしてもやっぱり多すぎます

こちらも、馴染みの薄い人からするとなかなか受け入れがたい部分であるはずです。

結局のところ「ザ・ジャズ・セオリー」はどうなのか?

ここまであれこれと本書の性質を紐解いてきましたが、結局のところこの「ザ・ジャズ・セオリー」はどうなのか、といわれれば、やはり

中級以降の音楽理論を学びたい人たちすべてに無条件でおすすめできるものではない

といえます。

そのうえで、内容の濃さはトップクラスで、かつ譜例(曲例)も多く自習しやすいことから、

  • 解説のぎこちなさ
  • 洋書翻訳本としての読みづらさ

などを受け入れつつ、立ち止まりつつも自分なりに考えて、長い時間を掛けて読み進めていける人にはおすすめできます。

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加えて、この本は値段が高いのでその点で腹をくくれる、というところもポイントとなるかもしれません。

数あるジャズ理論書のうちのひとつの柱のような存在として、何度も繰り返し読んでゆっくりと頭に入れていくことを前提としつつ、ぜひ入手を検討してみてください。

私も本書を常に手元に置きつつ、繰り返し読んでいます。