曲分析や演奏をするにあたって思いのほか苦労するのが「キーの判別」です。
五線譜があればほとんどの場合簡単にキーを判別できますが、ポップス・ロックの世界ではコード譜のみしかないことも多いものです。
こちらのページでは主にコード譜のみの情報からどのようにキーを判別すればいいか、という点について解説していきます。
あわせて、そもそも「キーとはどのようなものなのか?」という点についてもおさらいしていきます。
是非これらの情報を素早く正確なキー判別に役立てて下さい。
目次
そもそも「キー」とは何か?
キーの判別方法をご説明する前に、まず「キー」とはどのようなものか、という点について簡単におさらいしておきます。
※関連ページ
「キー(音楽)」についての解説|キー=「中心音」と「まとまりのある音のグループ」を意味する言葉
「音の集まり」が「キー(調)」
「キー(調)」とは「音の集まり」のことを指す言葉です。
メロディやコードはその「音の集まり」をもとに組み立てられます。
言い換えると、メロディやコードに「どんな音が使われているか?」ということを明らかにすれば「どんなキーであるか?」がわかる、ということです。
もとになるのは「メジャースケール」
上記でご説明した「音の集まり」のことを「スケール」などと呼びますが、ポップス・ロックにおける多くの曲は「メジャースケール」をその「音の集まり」として活用しています。
メジャースケール解説ページ
メジャースケールの内容とその覚え方、割り出し方、なぜ必要なのか?について
メジャースケールに関する詳しい説明は上記ページに譲りますが、例えば「Cメジャースケール=ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」をメインとして扱う曲は「キー=C」ということになります。
コードは「ダイアトニックコード」
コードにおいてもこれは同じで、多くの場合「メジャースケール」をもとにした「メジャーダイアトニックコード」をメインとして活用します。
ダイアトニックコード解説ページ
ダイアトニックコードとスリーコード(成り立ちとコードの役割などについて)
上記の「Cメジャースケール=ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」であれば、これらをもとに「C・Dm・Em・F・G・Am・Bm-5」という七つのコードが組み立てられ、それらをコードとして使用していきます。
コードのみの情報からキーを判別する
キーの成り立ちを逆説的に考える
ここまでの内容を踏まえて、ではコードのみの情報からどのようにそのキーを判別していけばいいのかというと、下記の通りここまでに解説した内容を逆説的に考えていけばそれを実現することができます。
(逆説的な考え)
↓
キーを特定する手順(1)
下記は、全12通りのダイアトニックコード一覧です。
これは、例えば「Cダイアトニックコード(キー=C)」であれば「C・Dm・Em・F・G・Am・Bm-5」の七つ、「ダイアトニックコード(キー=F)」であれば「F・Gm・Am・B♭・C・Dm・Em-5」の七つのコードがそこに含まれるということを意味しています。
既に述べた通り、「曲にどんなコードが使われているか」「それらはどのダイアトニックコードに属するか」を確認することでキーを特定できます。
そのため、まずやるべきことはコード譜の中からコードをいくつか抜き出すこと、そしてそれらがどのダイアトニックコードに含まれているかを確認すること、です。
- コード譜の中からコードをいくつか抜き出す
- それらがどのダイアトニックコードに含まれているかを確認する
例えばコード譜の中に下記のような流れがあった場合、ここから抜き出すことができるコードは「D」「Bm」「G」「A」の四つです。
これら四つのコードを上記のダイアトニックコード表と照らし合わせると、「Dダイアトニックコード」=「D・Em・F#m・G・A・Bm・C#m-5」にすべて含まれていることがわかります。
そこから「この曲のキーは『D』ではないか?」と推測することができます。
ダイアトニックコードを確認するときのポイント
ここでポイントとなるのは他のキーと取り違えないようにする、ということです。
例えば、前述の四つのコードのうち「D」「Bm」「G」は「Gダイアトニックコード」=「G・Am・Bm・C・D・Em・F#m-5」にも含まれています。
ここで早合点をしてしまい「キーは『G』だ」として進めてしまわないように注意してください。
※この「キーの取り違え」を防ぐための手順については後述します。
「M7」や「7」が付くコードへの対処
コードには、前述したように「D」「Bm」というアルファベットのみの表記によるもの以外に、「DM7」や「Bm7」というように「M7(または「△7」)」「7」を含むものが多く存在します。
それらのコードはいくつかの意味を持ちますが、キーの判別に慣れないうちは作業を簡略化させる意味でそれらの表記(「M7」や「7」)を除外してコードを捉えるようにしてください。
※同様に「6」「9」「11」「13」などが付くコードについても、それらを除外してコードを捉えると作業を進めやすいでしょう。
分数コードへの対処
「M7」や「7」が付くコードに加えて、コード譜の中には「〇〇on〇〇」「〇〇/〇〇」というような表記のコードが存在することもあります。
これらは「分数コード(オンコード・スラッシュコード)」と呼ばれるもので、コードのベース音のみを本来の音ではないものに置き換えていることを意味します。
分数コード(オンコード、スラッシュコード)の使い方や成り立ちなどについて
これらのコードにもさまざまなパターンが考えられますが、基本的には表記の左側(例えば「GonB」であれば「G」)だけを見てコードを読み解くようにしてください。
また「〇〇onV」という形を持つもの(前述の「キー=D」の例でいう「〇〇onA」)は重要なコードであるため、その場合のみ特別な扱いをします(※後述)。
その他の特殊コードへの対処
また、コードにはこれら以外にも「dim」「aug」「add9」「sus4」「-5」などさまざまな表記を持ったものが存在します。
コードによるキーの判別に慣れないうちは、基本的にこれらのコードは除外して考えるようにしてください。
キーを特定する手順(2)
前述の「手順(1)」でひとつのキーが推測できたら、次にコード譜の中で「そのキーを象徴するコードの動き」があるかを確認します。
「キーを象徴するコードの動き」とは、具体的にはダイアトニックコード内における「IV → V → I」、または「IIm → V → I」です。
- コード譜の中に、ダイアトニックコード内における「IV → V → I」、または「IIm → V → I」の動きがあるかを確認する
例えば、前述の通り「キーは『D』ではないか?」と推測していたとします。
ここで、その推測をもとに改めて「Dダイアトニックコード」を確認すると、それが「D・Em・F#m・G・A・Bm・C#m-5」という七つのコードから成り立っていることがわかりますが、ここで前述の「キーを象徴するコードの動き」を抜き出します。
一つ目は「IV → V → I(四番目→五番目→一番目)」であるため、それをコードに置き換えると「G → A → D」となります。
二つ目は「IIm → V → I(二番目→五番目→一番目)」であるため、「Em → A → D」です。
この「G → A → D」または「Em → A → D」というコードの流れがコード譜の中に存在するか、という観点でコード譜を確認してください。
ここでそれらを見つけることができた場合、この例では「キーは『D』である」と断定することができます(キー判別作業の完了)。
「V」のバリエーションについて
曲調によっては、「V」が「IVonV」や「IIm7onV」・「Vsus4」などになっていることもあります。
(前述の「キー=D」における、「A」が「Em7onA」「GonA」「Asus4」などになっているケース)
その場合は、特例としてそれらを「V」として捉えるようにしてください。
「キーを象徴するコードの動き」が無かった場合
もちろん「キーを象徴するコードの動き」が無いことも考えられます。
その場合には、次のステップとして「IV → V」や「IIm → V」があるかを確認してみて下さい。
これらがあった場合には、ほとんどの曲においてそのキーとして断定することができます。
またそれさえも無かった場合、その曲は「キーの判別がしづらい曲」として対処してください。
※そこからさらにキーの判別を追求する手段は幾つかありますが、ここでは省略します。
また、ほとんどの曲はここまでの手順を通してキーが断定できるはずです。
全体を通した注意点
コード譜からコードを抜き出してキーを判別するにあたり、異質だと感じるコードがあるはずです。
これは、例えば「キーは『D』ではないか?」と推測しているのに「Dダイアトニックコード」に無い「Gm」や「C」などがそこにあるパターンのことを指します。
この場合には、あくまで「大多数を占めるコード」という観点でキーを推測するようにしてみて下さい。
(例えば「D → Bm → C → G → A」というコード進行があったら「『C』以外は全部『Dダイアトニックコード』に含まれるからキーは『D』ではないか?」と考える、ということです)
また前述した通り、曲調によってはそれでもキーが推測できない場合があります。
途中で転調していたり、キーがあやふやな曲も存在するため、その場合はメロディラインを確認したりしながら柔軟に対応するようにしてください。
マイナーキーについて
今回はメジャーキーのみに絞って解説を行っています。
マイナーキーはメジャーの延長として考えることができるため、まずはメジャーキーのキー判別に慣れるように取り組んでみて下さい。
※マイナーキーの判別方法は別途解説します。
まとめ
ここまで、曲のキーを判別する方法について解説してきました。
改めて手順をまとめると、下記のようになります。
- コード譜の中からコードをいくつか抜き出す
- それらがどのダイアトニックコードに含まれているかを確認してキーを推測する
- 推測したキーのダイアトニックコードをもとにして、コード譜の中に「IV → V → I」または「IIm → V → I」の動きがあるかを確認する
- その動きがあった場合にキーを断定できる
慣れないうちはキーの判別に時間が掛かるものですが、ダイアトニックコードを理解し、前述の「IV → V → I」や「IIm → V → I」を含む音楽理論的な概念を知る程に素早く対処できるようになっていきます。
まずは上記を参考にキーの判別を繰り返し練習し、その理解を深めて下さい。
補足
上記で述べた内容に関連して、キー判別をやりやすくするための音楽理論の学習方法について以下のページにて解説しています。
ご興味のある方は是非参考にしてみて下さい。
音楽理論を知りたい人のための「学習の見取り図」※独学に活用できる「音楽理論の何をどの順番で学べばいいか」のまとめ
作曲が上達する「曲分析」について知る
