曲分析や演奏をするにあたって、思いのほか苦労するのが「キーの判別」です。
五線譜があればほとんどの場合簡単にキーを判別できますが、ポップス・ロックの世界ではコード譜のみしかないことも多いものです。
▼五線譜からキーを判別する方法については、以下のページにて詳しく解説しています。
楽譜(五線譜)の調号によるキーの見分け方 調号=シャープ・フラットの数からキーを判別する方法と詳細解説
こちらのページでは主に
という点について解説していきます。
あわせて、そもそも「キーとはどのようなものなのか?」という点についてもおさらいしていきます。
是非これらの情報を、素早く正確なキー判別に役立てて下さい。
目次
そもそも「キー」とは何か?
キーの判別方法をご説明する前に、まず「キー」とはどのようなものか、という点について簡単におさらいしておきます。
▼関連ページ キー(音楽)について キー=「中心音」と「まとまりのある音のグループ」を意味する言葉
「音の集まり」が「キー(調)」
「キー(調)」とは簡単にいえば「音の集まり」のことを指す言葉で、メロディやコードは基本的にその「音の集まり」をもとに組み立てられます。
これは、後述するように
ということにつながります。
もとになるのは「メジャースケール」
上記でご説明した「音の集まり」のことを「スケール」などと呼びますが、ポップス・ロックにおける多くの曲は「メジャースケール」をその「音の集まり」として活用しています。
メジャースケール解説ページ
メジャースケールの内容とその覚え方、割り出し方、なぜ必要なのか?について
この「メジャースケール」の他にもうひとつ代表的なものとして「マイナースケール」が存在しますが、こちらでは一旦そちらの解説を割愛します。
メジャースケールに関する詳しい説明は上記ページに譲りますが、例えば
をメインとして扱う曲は「キー=C」ということになります。
コードは「ダイアトニックコード」
コードにおいてもこれは同じで、曲のコード進行には多くの場合「メジャースケール」をもとにした「メジャーダイアトニックコード」をメインとして活用します。
ダイアトニックコード解説ページ
ダイアトニックコードとスリーコード 概要や成り立ち、コードの役割などについて
上記の「Cメジャースケール=ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」であれば、これらをもとに
という七つのコードが組み立てられ、それらをコードの展開に使用していきます。
コードのみの情報からキーを判別する
キーの成り立ちを逆説的に考える
ここまでの内容を踏まえて、ではコードのみの情報からどのようにそのキーを判別していけばいいのかというと、下記の通りここまでに解説した内容を逆説的に考えていけばそれを実現することができます。
(逆説的な考え)
↓
これ以降はキーを判別する具体的な手順について解説していきます。
キーを特定する手順(1)
以下は、全12キーの(メジャー)ダイアトニックコードを一覧にした表です。
これは、例えば「Cメジャーダイアトニックコード(キー=Cメジャー)」であれば
「C・Dm・Em・F・G・Am・Bm-5」
の7個のコード、「Fメジャーダイアトニックコード(キー=Fメジャー)」であれば
「F・Gm・Am・B♭・C・Dm・Em-5」
の7個のコードがそこに含まれる、ということを意味しています。
既に述べた通り、コードのみの情報からキーを判別するにあたり、
- 曲にどんなコードが使われているか
- それらはどのダイアトニックコードに属するか
を確認することが必要となるため、まず第1の手順として
- コード譜の中からコードをいくつか抜き出す
- それらがどのダイアトニックコードに含まれているかを確認する
の二点を行います。
- コード譜の中からコードをいくつか抜き出す
- それらがどのダイアトニックコードに含まれているかを確認する
例えばコード譜の中に以下のような流れがあった場合、ここから抜き出すことができるコードは「D」「Bm」「G」「A」の四つです。
これら四つのコードをダイアトニックコード一覧の表と照らし合わせると、
「Dメジャーダイアトニックコード」=「D・Em・F#m・G・A・Bm・C#m-5」
にすべて含まれていることがわかります(※赤字部分)。
そこから「この曲のキーは『D』ではないか?」とまず推測することができます。
ダイアトニックコードを確認するときのポイント
ここでポイントとなるのは他のキーと取り違えないようにする、ということです。
例えば、前述した四つのコードのうち「D」「Bm」「G」は
「Gメジャーダイアトニックコード」=「G・Am・Bm・C・D・Em・F#m-5」
にも含まれています。
ここで早合点をしてしまい、誤って「キーは『G』だ」として進めてしまわないようにすることが大切です。
※この「キーの取り違え」を防ぐためのコツについては後述します。
「M7」や「7」が付くコードへの対処
コードには、前述したように「D」「Bm」というアルファベットのみの表記によるもの以外に、
- 「DM7」
- 「Bm7」
などのように「M7(または「△7」)」「7」を含むものが多く存在します。
これらは「セブンスコード」と呼ばれ、通常(三和音)よりもひとつ多い構成音によって成り立つコードを意味するものです。
※「セブンスコード」について、詳しくは以下のページにて解説しています。
セブンスコードの解説 コードに「7度」の音を含む四和音、その成り立ちと詳細について
キーの判別に慣れないうちは作業を簡略化させる意味でその表記(「M7」や「7」)を除外してコードを捉えるようにしてみてください。
同様に「6」「9」「11」「13」などが付くコードについても、それらを除外してコードを捉えると作業を進めやすいでしょう。
分数コードへの対処
また、「M7」や「7」が付くコードに加えて、コード譜の中には
- 「〇〇 on 〇〇」
- 「〇〇 / 〇〇」
というような表記のコードが存在することもあります。
これらは「分数コード(オンコード・スラッシュコード)」と呼ばれるもので、コードのベース音のみを本来の音ではないものに置き換えていることを意味します。
分数コード (オンコード、スラッシュコード)詳細と主な種類、代表的な活用方法などについて
これらのコードにもさまざまなパターンが考えられますが、基本的には表記の左側(例えば「GonB」であれば「G」)だけを見てコードを読み解くようにしてください。
「〇〇onV」という形を持つもの(前述の「キー=D」の例でいう「〇〇onA」)は重要なコードであるため、その場合のみ特別な扱いをします(※後述)。
その他の特殊コードへの対処
また、コードにはこれら以外にも
- 「dim」
- 「aug」
- 「add9」
- 「sus4」
- 「-5」
など、さまざまな表記を持ったものが存在します。
コードによるキーの判別に慣れないうちは、基本的にこれらのコードは除外して考えるようにしてください。
キーを特定する手順(2)
前述の「手順(1)」でひとつのキーが推測できたら次の手順として、コード譜の中に
「そのキーを象徴するコードの動き」
があるかを確認します。
ここで述べている「キーを象徴するコードの動き」とは、具体的にはダイアトニックコード内における「IV→V→I」や「IIm → V → I」などのコード進行のことを指します。
コード進行を数字(度数)で表す利点・代表的な数字パターンの解説 キー別のコード進行を効率良く覚える/扱うための概念
- コード譜の中に、ダイアトニックコード内における「IV→V→I」、または「IIm→V→I」などのコード進行があるかを確認する
例えば、前述の通り「キーは『D(メジャー)』ではないか?」と推測していた場合、その推測をもとに改めて「Dメジャーダイアトニックコード」を確認すると、それが
「D・Em・F#m・G・A・Bm・C#m-5」
という七つのコードから成り立っていることがわかります。
ここで前述した「キーを象徴するコードの動き」を抜き出すと、例えば「IV→V→I(四番目→五番目→一番目)」は
「G→A→D」
だとわかり、またもうひとつの「IIm→V→I(二番目→五番目→一番目)」は、
「Em→A→D」
だとわかります。
そのうえで、これら
- 「G→A→D」
- 「Em→A→D」
というコードの流れが存在するか、という観点でコード譜を確認してください。
ここでそれらを見つけることができた場合、この例では「キーは『D』である」と断定することができます(キー判別作業の完了)。
「V」のバリエーションについて
曲調によっては、上記で述べた「V(五番目のコード)」が
- 「IVonV」
- 「IIm7onV」
- 「Vsus4」
などになっていることもあります。
これは、例えば「キー=D」における「A」が「Em7onA」「GonA」「Asus4」などになっているケースのことを指します。
その場合は、特例としてそれらを「V」として捉えるようにしてください。
「キーを象徴するコードの動き」が無かった場合
また、もちろん上記で述べた「キーを象徴するコードの動き」が無いことも考えられます。
その場合には、次のステップとして(「キーを象徴するコードの動き」を分解した)、
- 「V→I」
- 「IV→V」
- 「IIm→V」
があるかを確認してみて下さい。
これらがあった場合には、同じようにそのキーとして断定することができます。
キーを連想させるような目立ったコードの動きが無かった場合
またそれさえも無かった場合、その曲は「キーの判別がしづらい曲」として対処してください。
そこからさらにキーの判別を追求する手段は幾つかありますが、こちらでは割愛します。
また、ほとんどの曲はここまでの手順を通してキーが断定できるはずです。
全体を通した注意点
コード譜からコードを抜き出してキーを判別するにあたり、異質だと感じるコードがあるはずです。
これは、例えば「キーは『D』ではないか?」と推測しているのに
「Dメジャーダイアトニックコード」に無い「Gm」や「C」
などがそこにあるパターンのことを指します。
この場合には、あくまで「大多数を占めるコード」という観点でキーを推測するようにしてみて下さい。
これは、例えば
「D→Bm→C→G→A」
というコード進行があったら
「『C』以外は全部『Dメジャーダイアトニックコード』に含まれるからキーは『D』ではないか?」
と考える、ということです。
また前述した通り、曲調によってはそれでもキーが推測できない場合があります。
途中で転調していたり、キーがあやふやな曲も存在するため、その場合はメロディラインを確認したりしながら柔軟に対応するようにしてください。
マイナーキーについて
ページ冒頭で述べた通り、曲のキーにはこちらで例として挙げた「メジャーキー」以外にも、「マイナースケール」を土台とした「マイナーキー」が存在しています。
マイナーキーはメジャーの延長として考えることができるため、まずはメジャーキーのキー判別に慣れるように取り組んでみて下さい。
まとめ
ここまで、曲のキーを判別する方法について解説してきました。
改めて手順をまとめると、以下のようになります。
- コード譜の中からコードをいくつか抜き出す
- それらがどのダイアトニックコードに含まれているかを確認してキーを推測する
- 推測したキーのダイアトニックコードをもとにして、コード譜の中に「IV→V→I」または「IIm→V→I」の動きがあるかを確認する
- その動きがあった場合にキーを断定できる
そもそも、慣れないうちはキーの判別に時間が掛かるものです。
ダイアトニックコードを理解し、前述の「IV→V→I」や「IIm→V→I」を含む音楽理論的な概念を知る程に素早く対処できるようになっていきます。
まずは上記を参考にキーの判別を繰り返し練習し、その理解を深めてみて下さい。
補足
上記で述べた内容に関連して、キー判別をやりやすくするための音楽理論の学習方法について以下のページにて解説しています。
ご興味のある方は是非参考にしてみて下さい。
音楽理論を知りたい人のための「学習の見取り図」※独学に活用できる「音楽理論の何をどの順番で学べばいいか」のまとめ
ポップス・ロック作曲の上達につながる「曲分析ガイドブック」について知る
作曲がぐんぐん上達する「曲分析ガイドブック」のご紹介ページ